2013年3月4日月曜日

「ジャンゴ 繋がれざる者」から見るマカロニウエスタンの本質

クエンティン・タランティーノ監督による「ジャンゴ 繋がれざる者」。
ずっと楽しみにしていたこの作品が、やっと公開になったので、
さっそく見に行ってきました。











この映画、ただのウエスタン(西部劇)映画ではなく、タランティーノが自分の大きなルーツのひとつであると語る「マカロニウエスタン」というジャンルへのリスペクト映画でもあります。

高校時代にタランティーノ作品からマカロニウエスタンについて知り、その代表監督であるセルジオレオーネ作品にどっぷりハマってしまった私としては、この映画は本当に特別で、楽しみにしていた作品でした。


マカロニウエスタンとは何か?

感想について触れる前に、マカロニウエスタンとは何かを
知らない人のために簡単に説明しておきます。

マカロニウエスタンとは、1960~1970年代にイタリアで作られた西部劇映画のことです。代表作としては「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「荒野の1ドル銀貨」などがあり、クリント・イーストウッドはこのジャンルから有名になった俳優でもあります。

アメリカで作られた西部劇とマカロニウエスタンの大きな違いは、残虐性の強いストーリーとキャラクター、激しい銃撃シーン、そして(これはマカロニウエスタンの、というよりもその代表監督であるセルジオ・レオーネ作品の特徴といったほうがいいかもしれませんが、)決闘シーンなどに見られる圧倒的な様式美、外連味、登場人物のキャラクター性の強さなどがあげられます。

アメリカの西部劇が、カウボーイたちを「アメリカ建国の父」として、ある種情緒的に描き出すのに反して、マカロニウエスタンは過剰なまでにエンターテインメントとして音楽や演出で盛り上げていく感じです。80,90年代のアクション映画に近い雰囲気です。
(ちなみに香港アクションの巨匠、ジョン・ウーもマカロニウエスタンのファンです)

↓こんなイメージ。「夕陽のガンマン」より


この特徴や作風によって、世界中にファンが多く、DVD化も結構な数の作品がされていて、今でもマカロニウエスタンをリスペクトした映画が多く作られてもいます。日本でも三池監督の「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」やクレヨンしんちゃんシリーズの「嵐を呼ぶ 夕陽 のカスカベボーイズ」などはど直球にマカロニウエスタンを意識してリスペクトした映画になっています。


「ジャンゴ 繋がれざる者」のマカロニウエスタンらしさ

ということで、タランティーノのマカロニウエスタンリスペクト映画である「ジャンゴ」もそういう演出的な意味でのマカロニリスペクトの映画なのかなと思っていました。

ところがどっこい、これが全然違ったんです。
マカロニのもうひとつの側面にどちらかというとフォーカスした映画でした。



もう一方のマカロニウエスタンらしさ、
それはマカロニウエスタンが生まれた歴史に関係があります。

ウエスタン・西部劇映画とは、そもそもアメリカの西部開拓時代を描いた作品です。
だから舞台はアメリカであることが大前提で、もちろんマカロニウエスタンも設定的に同じです。それがなぜイタリアで作られることになったかというと、いろんな時代背景が絡んでくるのです。

まず、アメリカで西部劇が一番流行っていたのはジョン・ウェインとジョン・フォード監督がタッグを組んで名作を量産していた1940年代から1960年代頭くらいの時期です。
このころ西部劇はアメリカ映画の花形でした。












ところが1960年代半ばになってくると、アメリカはベトナム戦争へと突入し、さらに国内では人権運動の機運が高まってきます。

このころの西部劇は、西部を開拓していく白人カウボーイをヒーローとし、その敵、悪役として先住民であるインディアンを描いていました。その描かれ方が、人権運動の高まる時代の雰囲気とだんだんと離れていき、西部劇の人気は一気に衰えていきます。人気の衰えはそのまま予算の縮小につながり、アメリカで西部劇をつくることはだんだん少なくなっていきました。

一方ところ変わって、ヨーロッパ・イタリアではその頃ちょうど、大巨匠フェデリコ・フェリーニらによって生み出されたイタリアの映画黄金期が終わりを迎え始めた頃でした。

その結果、黄金期には多くの超大作映画を生み出したチネチッタスタジオをはじめとする映画の制作スタジオや製作業界が経営難に陥り、製作リソースが余っている状態にありました。

そこで目を付けられたのが「西部劇」というジャンルでした。

イタリアの若い監督たちが、アメリカで斜陽になった西部劇俳優たちを呼び寄せ、ユーゴスラビアやスペインの砂漠などを使って撮影されたのが「マカロニウエスタン」というジャンルなのです。


そこで出てくるのが、もうひとつのマカロニウエスタンの特徴です。
それは、内容はアメリカの歴史でも、作っている人間はアメリカ人でないため生まれた特徴であるとも言え、端的にいうと「カウボーイたちを英雄視する気が全く皆無」だということです。

とにかく徹底的にまでもマカロニウエスタンに出てくる登場人物はクソ野郎です。
銃を持つ人間は白人もメキシコ人もインディアンも黒人もみな等しく残虐で、そいつらが逆に爽快なまでに醜く争うのがマカロニウエスタンなのです。

マカロニウエスタンは
「アメリカが描こうとしなかった西部開拓の姿を描いた西部劇」でもあるのです。



今回の「ジャンゴ 繋がれざる者」でフォーカスされたのは、
黒人奴隷について、です。

これはアメリカ映画、特に西部劇がタブー化して描くのを避けてきたテーマでした。史実上は黒人のカウボーイも多かったという話も聞きますが、アメリカ西部劇映画で黒人の奴隷がしっかり出てくることはあまりありませんでした。

ここに焦点を当てたのが今回の映画になっています。


それはある意味で、マカロニウエスタンの「アメリカが描こうとしなかった西部の姿を描いたジャンル」という精神をリスペクトした初めての映画になったんじゃないかと私は感じました。

単純にマカロニウエスタンの演出・構成的特徴を取り入れた作品は世の中に数多く出ていますが、それだけでなくここまで精神的な意味でマカロニというジャンルをリスペクトした映画はこれまでなかったような気がします。

そういう意味で、改めてタランティーノの
懐の深さを感じた映画になったような気がします。
(演出的なマカロニリスペクトはキルビルで十分やりきったのかもしれません。)


とりあえずそんな薀蓄は置いといても、よい映画だったのでオススメの映画です。
ただ、残虐シーンはデフォルトで山盛りなので、
そういうの苦手な方にはお勧めしませんのであしからず,,,